私たちの日常に潜む恐怖——それがもし、隣のドアの向こう側に潜んでいたとしたら、あなたはどうしますか？
2012年に公開された韓国映画『隣人 / The Neighbors
』は、キム・フィ監督による、観る者の心理を巧みに揺さぶるサスペンス・ホラーです。
この作品は平穏な日常がいかに脆く崩れ去るかを鮮烈に描き出します。
一見平凡なアパート団地で起きた少女失踪事件をきっかけに、住民たちの間に広がる猜疑心と恐怖の連鎖…。
マ・ドンソク、キム・ユンジンら韓国を代表する名優たちの息詰まる演技と、犯人が最初から明かされる異色の展開で、むしろその緊迫感に心拍数は上昇するばかり。
それでいてホラーとサスペンスが絶妙に交錯し、日常の安全という幻想を打ち砕く恐怖の本質を鋭く描き出します。
この映画を見終わった後、あなたは隣人に挨拶をする時、その表情の裏に何が隠されているのか、ふと考えてしまうことでしょう…。
- 映画の概要
- キャストex
- ネタバレあらすじ
- 動画配信情報
- この映画の評価
- この映画の感想
- よくある質問
- まとめ
映画の概要
- 日本語タイトル：隣人
- 韓国語タイトル：이웃사람
- 英語タイトル：The Neighbors
- 監督：キム・フィ
- 出演：キム・ユンジン、キム・セロン、マ・ドンソク 他
- 吹き替え：日本語の吹替なし
キャストex
ソン・ギョンヒ / キム・ユンジン
殺害されたウォン・ヨソンの母の継母。
事件の当日、交通事故を起こし、ヨソンを迎えに行けなかったことに罪悪感を覚え苦しんでいる。
アン・ヒョンモ / マ・ドンソク
前科のある闇金融業者。
殺人犯スンヒョクと駐車場トラブルを起こしている。
ウォン・ヨソン / キム・セロン
殺人犯スンヒョクに殺害される女子中学生。
ギョンヒの継子。
ユ・スヨン / キム・セロン
同じ団地に住むヨソンに瓜二つの少女。
管理人ジョンロクと親しい。
殺人犯スンヒョクの次のターゲットとなる。
リュ・スンヒョク / キム・ソンギュン
連続殺人犯。
職業は船乗り。
ピョ・ジョンロク / チョン・ホジン
団地内の管理人。
以前、殺人を犯した過去を持つ。
もうすぐ時効を迎える。
ハ・テソン / チャン・ヨンナム
団地内の町内会長。
スヨンの母。
キム・サンヨン / イム・ハリョン
かばん店の店主。
アン・サンユン / ト・ジハン
ピザ屋マロンの店員。
韓国映画『隣人』のネタバレあらすじ
閉ざされた団地という空間で繰り広げられる恐怖の連鎖…。
韓国映画『隣人』は、私たちの日常に潜む「恐怖」を描き出した作品です。
一人の女性として、この映画のあらすじをお伝えすることで、「隣人」という存在の不気味さを皆さんと共有したいと思います。
物語はソウル郊外のカンサン団地11棟から始まります。
201号室に住む女子中学生ウォン・ヨソン（キム・セロン）が、ある夜、塾からの帰り道、一人でバスに乗って帰宅しようとします。
しかし、彼女はその夜を最後に姿を消し、翌日、バラバラにされた遺体となって発見されるのです。
ヨソンの継母ソン・キョンヒ（キム・ユンジン）は、生前ヨソンとの関係がギクシャクしていたため、深い後悔と罪悪感に苛まれます。
彼女は娘の死をきっかけに精神的なショックを受け、ヨソンの幻影を見るようになります。
私たちにも身に覚えのある感情——「もっと違う関係を築けていたら」という後悔の念が、キョンヒの心を蝕んでいくのです。
この悲劇的な事件の後も、カンサン団地では10日おきに同様の連続殺人事件が発生します。
若い女性が10日おきに犠牲になるという恐ろしい規則性に、団地の住民たちは恐怖と不安に包まれていきます。
そんな中、キョンヒは殺されたヨソンと瓜二つの少女ユ・スヨン（同じくキム・セロン）が同じ団地に住んでいることを知ります。
不思議な縁を感じたキョンヒは、スヨンに近づき、彼女と交流を深めていきます。
この疑似的な母娘関係は、キョンヒにとって亡くなったヨソンへの贖罪の機会となります。
一方、団地の住民たちは、リュ・スンヒョク（キム・ソンギュン）という102号室の男に次第に疑いの目を向け始めます。
スンヒョクの不審な行動——異常に高額な水道代、深夜に運び出される大きなスーツケース、そして事件発生日に必ず注文されるピザ…。
これらの「偶然の一致」は、あまりにも奇妙でした。
この団地で警備員として働くピョ・ジョンロク（チョン・ホジン）は、過去に人を殺した経験を持つ人物です。
彼は明るく素直で優しい少女スヨンに対して、祖父や父親のような愛情で温かく見守っていました。
そして例の連続殺人鬼に気をつけるようにと、彼女の身を案じていた矢先…。
ジョンロクはスンヒョクの高額な水道代と異様な言動に気が付き、彼の自宅の水道管を点検した際、そこに血痕と女性の髪の毛を発見し、彼が連続殺人犯であることを確信します。
けれども、過去に自身が犯した殺人の時効が間近に迫っていたため、ジョンロクは殺人犯であるスンヒョクを警察に通報することはありませんでした…。
ピザ配達員の正義感あふれる青年アン・サンユン（ト・ジハン）もまた、重要な役割を果たします。
彼はスンヒョクの部屋にピザを届けるたびに、部屋から漏れ聞こえる異様な音や、スンヒョクの不自然な態度に違和感を覚えていました。
ある日、配達を装ってスンヒョクに接触した彼は、そこで手にしたものに恐怖を覚えます…。
それは血がべっとりとついた紙幣でした。
さらに同じ団地の元服役囚で現在は高利貸しとして生計を立てているアン・ヒョクモ（マ・ドンソク）は、駐車場でのトラブルからスンヒョクと対立関係になります。
腕っぷしの強いヒョクモは陰気なサイコパス、スンヒョクをこてんぱんにやっつけるのですが…
このトラブルが発端となり、スンヒョクは巧妙な罠を仕掛け、ヒョクモを連続殺人事件の容疑者として警察に誤認逮捕させることに成功するのです。
団地の住民たちが自分に疑いの目を持ち始めたことに気付いたスンヒョク（職業は船乗り）は、予定を前倒しにして船に乗ることを決意。
そしてその前に、自分の正体に気付いているかばん屋の店主を殺害し、憎き荒くれ者のヒョクモに罪を擦り付けることを画策します。
また一方で、スンヒョクはスヨンを次のターゲットとして狙い定め、以前、ヨソンを殺害したときのように、スヨンが雨の中、１人夜道を帰宅するところを付け狙います。
しかしそれを察知したキョンヒは、ヨソンを守れなかった過去の償いとして「今度こそスヨンを守り抜く」と決意するのです。
物語はここから極度の緊張感へと向かいます。
その夜、暗い夜道でヨソンとキョンヒをストーカーするスンヒョク。
と、突然、街中で停電が発生。
暗闇の中、スンヒョクから逃れようとするキョンヒとスヨン。
そして、殺人鬼の正体を見破ったピザ屋のサンユンと、スヨンの身を案じる警備員のジョンロクがスンヒョクの自宅に侵入。
そこに、停電の混乱の中、警察署を脱走したヒョンモも加わり大乱闘に…。
この時も腕っぷしの強いヒョンモがスンヒョクを負かすのですが、その時、血を流し死んでいるスヨンの幻覚を見るジョンロク。
彼はスンヒョクがスヨンを殺害したと勘違いして、彼を鈍器で殴打し殺してしまいます。
そして過去の殺人の時効を目前にしていた男は、また静かに街の暗闇に姿を消すのでした…。
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55kankokuの独自評価
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ここでは当サイト『55kankoku.com』の独自評価とレビューを書いていきます。
まず総合評価はちょっと辛めの3.5ですが、迫真の演技を見せてくれたキャスト陣は本当に素晴らしかったです。
実力派俳優たちの迫真の演技
キム・ユンジン（ソン・ギョンヒ）
映画『隣人』の豪華キャスト陣の中でも、殺害された少女ヨソンの継母ギョンヒを演じたキム・ユンジンの鬼気迫る演技は圧巻の一言に尽きます。
彼女は韓国映画『シュリ』で一躍有名になり、アメリカのテレビドラマ『LOST』でも高い評価を得た実力派女優です。
そんなキム・ユンジンが表現する継母の後悔は痛いほど生々しく、観る者の心を締め付けます。
「あの日、交通事故を起こさなければ…」という自責の念が彼女の表情に常に影を落としています。
娘を迎えに行けなかったあの運命の日の過ちが取り返しのつかない結果を招いたという苦悩を、彼女は言葉以上に、絶望のまなざし、自己嫌悪と恐怖で震える、その体全体で表現しています。
さらに、再婚相手の娘との関係にもっと心を開いていれば、もっと理解し合えていれば、あの悲劇は避けられたのではないかという痛切な後悔の念が、キム・ユンジンの繊細な演技から手に取るように伝わってくるるようです。
亡霊となって現れる娘ソヨンの亡霊と向き合うたびに、「もっと歩み寄るべきだった」という自分を責める姿は、観客の涙を誘わずにはいられません。
彼女の深い後悔と悲しみを知るからこそ、「おかえりなさい」と精一杯の愛情と笑顔でソヨンを受け止め、謝罪する彼女が娘と和解できたとき、私たちは心から喜び安堵するのでしょう。
お互いを思いやりながらもうまく心を通じ合わせることのできない「もどかしさ」を感じたことのある人なら、誰でも共感できる感情ではないでしょうか？
そして、次の犠牲者を出さないという強い決意を秘めた眼差しは、彼女の母親としての自覚と覚悟が生まれたことを意味するのでしょう。
キム・ユンジンの演技力の真髄がここに表れています。
彼女の演じる後悔と贖罪の物語は、単なるスリラーを超えた人間ドラマとしての深みを作品に与えています。
キム・セロン
『隣人』でもう一人際立つ存在感を放ったのは、キム・セロンです。
本作で彼女は、最初の犠牲者となるウォン・ヨソンと、同じアパートに住む次のターゲット、ユ・スヨンという一人二役を見事に演じ分けました。
わずか11歳とは思えない、大人顔負けの高い演技力で、無邪気さと恐怖、子どもらしさと悲哀という相反する感情を見事に表現しています。
特に殺害される少女、ウォン・ヨソンの恐怖に満ちた表情や、幽霊となって密かに慕っていた継母のもとを訪れる幼気な姿は、観る人の心を打ちます。
キム・ユンジン演じる大人の女優と対等に渡り合う演技は、キム・セロンの天賦の才能を証明しています。
キム・セロンは韓国の人気俳優ウォンビンと共演した『アジョシ』や『私の少女』などに出演した、韓国を代表する子役スターでしたが、悲しいことに、2023年1月、まだ若干29歳という若さで自ら命を絶ちました。
彼女の突然の訃報は韓国国内外のファンに大きな衝撃を与えました。
映画『隣人』に残された彼女の演技は、今やその若き才能の永遠の証となり、早すぎる別れを惜しむファンにとって貴重な思い出と記憶となっています…。
マ・ドンソク
韓国ドラマや映画が好きな人なら誰でも知っているマブリーことマ・ドンソク。
元受刑者で現在は貸金業者として生計を立てるアン・ヒョンモ役を演じた彼は、圧倒的な体格と相反する繊細な演技で観る人を魅了します。
10棟202号に住むこのキャラクターは、一見すると恐ろし気な入れ墨と強面の外見、過去に何度も刑務所に入っているといういわくつきの過去を持ちながらも、心の奥に温かい人情と熱い正義感を秘めた複雑な人物として描かれています。
マ・ドンソクは、その巨漢の体を活かした威圧感と腕っぷしの強さで連続殺人鬼をやっつける場面と、意外な優しさを見せる場面との対比を絶妙なバランスで表現しています。
単なる脇役を超えた存在感を放つマ・ドンソクの演技力は、その後『犯罪都市』シリーズなど数々のヒット作で主役を務めることになる予兆を見せています。
ちなみに、マ・ドンソクは本作『隣人』で第49回百想芸術大賞・男子助演賞を見事、受賞しています！
ホラーの中に垣間見る人間ドラマ
韓国映画『隣人』はジャンル的にはホラー・ムービーですが、「女性の心理」を驚くほど繊細かつ正確に描いています。
前述しましたが、キム・ユンジン演じる継母ギョンヒの複雑な感情の描写は、まるでヒューマンドラマのよう。
継娘とのぎこちない関係に悩み、歩み寄ろうとするもののすれ違ってしまう戸惑いと焦り。
事件当日、自身が起こした交通事故で彼女を迎えに行けなかった自責の念。
そして死んだ継娘の亡霊に対する恐怖と贖罪の狭間で揺れ動く心—。
ここまで極端ではないにしても、これらは多くの母親が抱える感情の揺れではないでしょうか？
ステレオタイプな「意地悪な継母」像を避け、「ごく普通の女性」として継母ギョンヒを描くことで、視聴した女性たちの共感を得た気がします。
また、被害者となる少女たちの描写も、単なる「か弱い少女」ではなく、それぞれに個性と意志を持つ存在として丁寧に描かれている点も見どころの一つ。
女子中学生のありふれた日常的を具体的に描くことで、「誰にでも起こりうる悲劇」としてのリアリティが増しています。
このように丁寧に描かれた心理描写が、映画『隣人』を単なるホラー以上の作品に創り上げたのでしょう。
カメラワークの素晴らしさ
この映画では、カメラワークがサスペンスを盛り上げる上で非常に効果的な役割を果たしています。
特に、殺人鬼スンヒョクの視点と住民たちの視点を交互に切り替えることで、観る私たちは常にハラハラドキドキさせられます。
また、団地内を移動するカメラの動きは、まるで私たち自身がその場にいるかのような臨場感を生み出しています。
韓国映画独特の目を背けたくなるようなえぐい表現も少なく、ホラーが苦手な人も比較的安心して視聴できます。
派手な演出に頼らずとも、しっかりと手汗握る恐怖と臨場感を楽しめるのは、さすが韓国映画です。
感想
「わからない」ことへの恐怖
この映画は、犯人が最初から明かされています。
そのため、「犯人の心理描写や動機にもっと焦点を当ててほしかったと」いう声があるのも事実です。
確かに、連続殺人犯スンヒョクの異常性は描かれているものの、「なぜ彼が犯行に至ったのか」、その背景や心の闇については深く掘り下げられていません。
一般的なクライム映画では、犯人の過去やトラウマ、家族関係などを詳細に描くことで、犯人の心情への理解を促すことが多いものです。
しかし、私はこの「理解できない」という点こそが、この映画の狙いだと考えています。
スンヒョクを理解不能な存在として描くことで、日常に潜む「得体の知れない恐怖」をより強調しているのではないでしょうか？
私たちが日々顔を合わせる隣人が、実は理解も予測もできない危険な存在かもしれないという不安—。
それこそが現代社会における孤独と不安を象徴しているように思えてなりません。
また、別の見方をするならば…。
確かに殺人鬼スンヒョクは冷血で残虐なサイコパスです。
が…
ヤクザなヒョンモ（マ・ドンソク）には打ち負かされ…
少女の亡霊に脅かされて、一人では眠ることができない…
哀れで小心な普通の男でもあります。
もし、どこにでもいる、ありふれた「隣人」が抱える闇が底なしに深く、暗いものだとしたら……。
そんな「わからない」ことへの恐怖が搔き立てられた作品でした。
「見て見ぬふり」がもたらす悲劇
もう一つ、この映画が描き出しているのは、隣人への無関心や、見て見ぬふりをすることがいかに恐ろしい結果を招くかという点です。
この映画では、時効成立まであと5ヶ月というアパートの管理人（ピョ・ジョンロク）が、自分の過去の罪が発覚することを恐れて警察への通報をためらう姿が描かれています。
また、犯人が使用したものと同じスーツケースを購入した男性を目撃した鞄店の主人（キム・サンヨン）も、売上への影響や自身の身の安全への恐怖から警察には通報せず、見て見ぬふりをしました。
けれども、彼らは特別、卑劣な人物だったのでしょうか？
確かにアパートの管理人（ピョ・ジョンロク）には「殺人」という恐ろしい過去がありました。
けれでも彼が少女スヨンを見つめる眼差しは、どこまでも温かです。
鞄店の主人（キム・サンヨン）にしても、どこにでもいる「お調子者の気の良いおじさん」です。
私たち一人ひとりが、同じ状況に置かれたとき、勇気ある行動を取れるかどうか—。
それは簡単に答えられない問いかもしれません。
この映画はそんな「他人事で済ませる」社会の危うさを描いているのかもしれません。
よくある質問（FAQ）
まとめ
韓国映画『隣人』は、単なるスリラーの枠を超え、私たちの日常に潜む「見えない恐怖」を鮮烈に描き出した作品です。
カン・プル原作のこの映画が243万人もの観客を動員し、彼の原作映画では最高の興行成績を残したのも納得できます。
マ・ドンソク、キム・ユンジン、キム・セロンらの卓越した演技が織りなす人間ドラマは、サスペンスとホラーの要素を絶妙に融合させています。
特に継母の後悔と贖罪を繊細に表現したキム・ユンジンの演技と、一人二役を見事に演じ分けた天才子役キム・セロンの存在感は圧巻です。
この映画が私たちに投げかける問いは重いものです。
「隣に住む普通の人が、実は理解できない危険な存在かもしれない」という不安。
そして「見て見ぬふり」という日常的な無関心が招く恐ろしい結末。
これらは現代社会における孤独と人間関係の希薄さを象徴しています。
緻密なカメラワークと緊張感あふれる展開で、派手な演出に頼らずとも手に汗握るサスペンスを楽しめる『隣人』。
この映画を見終わった後、あなたは何気ない日常の中に潜む「恐怖」の存在に気づき、隣人との関係を見つめ直すきっかけを得るでしょう。
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